「歯を
抜くしかない」と
言われた方へ
重度歯周病でも、適切な診査・診断と治療によって歯を残せる可能性があります。

歯科医院で「この歯はもう残せません」「歯を支えている骨がほとんどないので抜歯です」と言われ、不安になっている方もいらっしゃると思います。
もちろん、抜歯が必要な歯を無理に残すことが良い治療とは限りません。
一方で、重度歯周病の歯でも、正確な診査・診断と適切な治療によって保存できる可能性があります。

まず知っていただきたい3つのこと

治療の説明をするドクター
  1. 「骨がない」という理由だけで抜歯が決まるわけではありません
  2. 骨吸収の程度だけではなく、骨欠損の形態、歯の動揺、根分岐部病変、歯根、根管、修復可能性などを総合的に評価します。

  3. 重度歯周病でも保存できる可能性があります
  4. 症例によっては歯周基本治療や歯周組織再生療法などによって、歯を保存できる場合があります。

  5. 一方で、無理に歯を残すことが最善とは限りません
  6. 歯を保存することによる長期的なメリットよりもリスクの方が大きい場合には、抜歯が患者さんにとってより適切な選択となることもあります。

「骨がない=抜歯」とは限りません

歯周病が進行すると、歯を支えている歯槽骨が徐々に失われていきます。レントゲン写真を見て「骨が半分以上なくなっています」「根の先近くまで骨が失われています」と説明されると、「もうこの歯は絶対に残せない」と思われるかもしれません。 しかし、骨がどの程度失われているかだけで、歯の予後を決定することはできません。

歯周病になった歯を残せるかどうかには、骨吸収量だけでなく、歯周ポケットの深さ、プロービング時の出血や排膿、骨欠損の形態、歯の動揺、根分岐部病変、歯根の形態、残存する歯質、咬み合わせ、喫煙、セルフケア、全身状態、治療後のメインテナンスへの参加など、多くの要因が関係します。

治療中のドクター

長期的な臨床研究においても、骨吸収、深い歯周ポケット、歯の動揺、根分岐部病変などは、将来的な歯の喪失と関連する重要な因子であることが示されています。 3,6)
したがって当院では、単純に「骨が◯%なくなったから抜歯」と判断するのではなく、その歯を取り巻く複数の要因を総合的に評価します。

抜歯を判断するためには、
歯周病以外の問題も確認します

歯を残せるかどうかを判断する際には、歯周病だけを診ればよいわけではありません。
ヨーロッパ歯周病学会(European Federation of Periodontology:EFP)のStage IV periodontitisに対する診療ガイドラインでも、重度歯周炎では歯周治療だけでなく、修復治療、補綴治療、矯正治療、咬合などを含めた包括的な診断と治療計画が重要であることが示されています。9) 当院では、主に以下のような項目を総合して評価します。

つまり私たちが考えているのは、「この歯を治療できるか?」ということだけではありません。
「治療した後、その歯を健康な状態で長く使っていけるか?」という視点から判断することが重要です。

「抜歯しかない」と考えられていた
歯でも残せることがあります

重度歯周病の歯を保存することについて、非常に興味深い臨床研究があります。

イタリアの歯周病専門医であるCortelliniらは、歯周組織の付着が根尖付近にまで失われ、従来であれば“hopeless tooth(保存困難と考えられる歯)”と判断されるほど重度の歯周病に罹患した歯を対象として、「抜歯してインプラントまたは固定性補綴装置で置き換える方法」と「歯を保存して歯周組織再生療法を行う方法」を比較する無作為化臨床試験を行いました。1,2)

治療室

50名のStage IIIまたはStage IV歯周炎患者を長期間追跡した結果、歯周組織再生療法を行った歯の10年後の生存率は88%でした。一方、抜歯後にインプラントまたは歯支持の固定性補綴装置で置換した群の10年生存率は100%で、両群の生存率の差は統計学的には有意ではありませんでした。1)
さらに、再生療法によって保存された歯では、10年後にも大きなクリニカルアタッチメントゲインが維持され、残存する歯周ポケットも平均3mm台と良好な状態が維持されていました。1)
この研究は、「重度に歯周組織を失った歯=必ず抜歯」というわけではないことを示す重要な研究です。

また、昔は抜くしかないと思われていた歯も高度な専門知識・技術を有する歯周病専門医による再生治療によって機能的な状態で歯を残すことができる可能性が示されました。
ただし、この結果を「どんな歯でも88%残せる」と解釈してはいけません。この研究では適切な症例選択、歯周病専門医による高度な歯周組織再生療法、そして治療後の厳格な歯周病のメインテナンスが行われています。

実際の治療結果は、骨欠損の形態、歯根の状態、喫煙、全身疾患、プラークコントロール、患者さんの協力度、治療後のメインテナンスの質などによって大きく異なります。

歯周組織再生療法という選択肢

歯周病によって失われた歯周組織を改善する治療の一つに、歯周組織再生療法があります。

ただし、「骨がなくなっていれば、どのような状態でも再生できる」という治療ではありません。歯周組織再生療法では、骨がどの程度失われているかだけではなく、どのような形で骨が失われているのかが非常に重要です。
例えば、歯の周囲に骨の壁が残っている深い骨内欠損などでは、再生療法によって良好な結果が得られる可能性があります。一方で、骨が全体的・水平的に大きく失われている場合などでは、同じような再生効果を期待することが難しい場合があります。

そのため当院では、歯周組織検査、デンタルX線写真、口腔内診査などを行い、必要に応じてCTなども用いながら、歯周組織再生療法の適応を慎重に判断します。

症例

症例 : 前医で左上の奥歯を
抜いた方が良いと言われたが、
歯を残したい

治療前の写真

症例

治療後の写真

症例
治療期間 6ヶ月
治療費 30万
治療内容 左上7歯周組織再生療法+左上6骨造成
治療のリスク 一時的な動揺の増加、知覚過敏、コンプライアンスが得られない場合再発の
可能性あり
症例を見る

「歯がグラグラしている=抜歯」
とも限りません

歯の動揺が強いことは、一般的には歯の長期予後を悪くする要因の一つです。
長期研究でも、歯の動揺、骨吸収、根分岐部病変、深い歯周ポケットなどは歯の喪失リスクと関連することが報告されています。3,4,5,6)
しかし、歯が動いているという一点だけで抜歯を決定するわけではありません。

炎症が強い場合には、歯周治療によって炎症が改善すると動揺が軽減する場合があります。また、症例によっては咬み合わせの調整や歯の固定などを組み合わせることもあります。

重要なのは「歯が動いているかどうか」だけではなく、「なぜ動いているのか(動揺の原因)」「治療によって安定した状態に改善できる可能性があるのか」を評価することです。

歯を残すことだけが
正解ではありません

カウンセリングを受ける女の人

当院では、できる限り患者さんご自身の歯を残すことを大切にしています。
しかし、私たちは「絶対に歯を抜かない歯科医院」ではありません。

歯を保存することによる長期的なメリットよりもリスクの方が大きいと判断される場合には、抜歯をおすすめすることがあります。

例えば、

・適切な治療を行っても感染をコントロールできない場合
・垂直性歯根破折など保存が困難な問題がある場合
・むし歯などによって十分な歯質が残っておらず適切な修復治療が困難な場合
・長期的に清掃可能な状態を作ることが難しい場合、
あるいはその歯を無理に残すことが周囲の歯や将来の補綴治療に悪影響を与えると考えられる場合

などです。
特に重要なのは、活動性のある重度歯周炎を「歯を残したい」という理由だけで放置しないことです。

歯を残すのであれば、炎症をコントロールし、患者さん自身が清掃可能で、治療後も安定した状態を維持できる環境を作る必要があります。

治療後のメインテナンスが
非常に重要です

重度歯周病の治療では、歯周治療や手術が終わった時点が治療のゴールではありません。

治療によって改善した状態を長期間維持できるかどうかが非常に重要です。

Matulieneらが歯周治療後の患者さんを平均11年以上追跡した研究では、治療後にも深い歯周ポケットが残っているほど、将来的な歯の喪失リスクが高くなることが報告されています。

メインテナンスを受ける患者

特に6mm以上の残存歯周ポケットは、病気が進行するリスクが高い部位として追加治療を検討する必要があります。7)
また長期研究では、喫煙、不十分なプラークコントロール、不規則な歯周メインテナンスなども歯の喪失と関連しています。5,6)

一方で、適切な歯周治療を受けた後にsupportive periodontal care(歯周病のメインテナンス)を継続している患者さんでは、多くの歯を長期間維持できることが報告されています。8)

そのため私たちは、「歯を残す治療」と「その歯を長く残すためのメインテナンス」は一つの治療として考える必要があると考えています。

歯を残すためのメンテナンス

当院で「抜歯」と言われた歯を
評価する流れ

説明をするドクター

1.まず患者さんのお話を伺います

なぜ抜歯と言われたのか、これまでどのような治療を受けてきたのかを確認します。
また、「できる限り自分の歯を残したい」「長期的に最も予後の良い治療を受けたい」「できるだけ手術を避けたい」など、患者さんの希望や価値観についてもお話を伺います。
当院では、最初から治療方法を決めるのではなく、まず患者さんが何を希望されているのかを理解することを大切にしています。

2.精密検査を行います

歯周ポケットや付着の程度の評価、プロービング時の出血、排膿、歯の動揺、歯肉退縮、根分岐部病変、プラークコントロール、咬み合わせなどを詳しく診査します。
また、デンタルX線写真を用いて骨吸収、むし歯、歯根の状態、根尖病変、不適合な被せ物などを評価し、必要に応じて追加の画像診査などを行います。

3.「なぜこの歯が悪くなったのか」
を診断します

同じように「骨がなくなっている歯」であっても、その原因が歯周病なのか、根の病気なのか、歯根破折なのか、咬み合わせの問題なのか、あるいは複数の問題が重なっているのかによって治療方法は大きく異なります。
したがって、まず原因をできる限り正確に診断することが重要です。

4.歯を残す場合と抜歯する場合を
比較します

「絶対に残せます」「絶対に抜歯です」と最初から決めつけるのではなく、歯を保存した場合に必要となる治療、予想される長期予後、治療期間、費用、治療に伴うリスクなどをご説明します。
同時に、抜歯した場合にどのような治療選択肢があるのかについてもご説明し、両者を比較します。

5.患者さんと一緒に最終的な
治療方針を決定します

医学的に可能な治療と、患者さんが希望される治療が一致することが重要です。
十分に説明を行ったうえで、それぞれの治療方法のメリット・デメリットを理解していただき、患者さんと相談しながら最終的な治療方針を決定します。

当院の精密検査・初診の流れを見る

他院で抜歯と言われた場合の
セカンドオピニオンについて

治療を行うドクター

他院で抜歯と説明されたことが、必ずしも間違っているという意味ではありません。

歯科治療では、同じ歯であっても診査した時期、利用できる治療方法、患者さんの希望、治療後の予測、歯列全体の治療計画、歯科医師の専門分野や倫理観などによって治療計画が異なる場合があります。

特に重度歯周病では、歯の長期予後を正確に予測することは簡単ではありません。
骨吸収、歯の動揺、根分岐部病変、歯周ポケットなどは予後に影響する重要な因子ですが、それらを組み合わせても個々の歯の将来を完全に予測することは困難です。

抜歯は、一度行うと元に戻すことができない治療です。
そのため、「本当にこの歯を残す方法がないのか、一度専門的に調べてもらいたい」と考えている患者さんは、抜歯を行う前にセカンドオピニオンを受けることも一つの選択肢です。

よくあるご質問

よくある質問

Q.「抜歯しかない」と言われた歯は
必ず残せますか?

A.いいえ。すべての歯を残せるわけではありません。

歯周病の程度だけではなく、骨欠損の形態、歯根破折、むし歯、根管治療の可能性、残存歯質量、歯の位置、清掃性、咬み合わせ、全身状態などを総合して判断します。
歯を保存するメリットよりもリスクの方が大きいと判断した場合には、当院でも抜歯をおすすめします。

Q.骨がほとんどなくても
歯周組織再生療法はできますか?

A.可能な場合がありますが、その歯の周囲の状態を詳細に調べてみないと
「骨が少ない」ということだけで適応を判断することはできません。

歯周組織再生療法では、失われた骨の量だけではなく、残っている骨壁や骨欠損の形態などが非常に重要です。
そのため、精密な歯周組織検査やX線診査などを行ったうえで適応を判断します。

Q.歯がかなりグラグラしていますが
残せますか?

A.歯の動揺が強いほど一般的には予後は悪くなりますが、
動揺だけで抜歯を決定するわけではありません。

歯が揺れている原因、炎症の程度、残っている歯周支持組織、咬み合わせ、歯根の状態などを評価し、治療によって安定した状態へ改善できる可能性があるかを判断します。

Q.抜歯してから
相談してもいいですか?

A.インプラントや骨造成などについては、抜歯後でも相談することができます。

しかし、「本当にその歯を残すことができないのか」を確認したい場合には、可能であれば抜歯を行う前にご相談いただくことをおすすめします。

Q.他院で抜歯予定ですが、
いつ相談すればよいですか?

A.歯を残せる可能性について確認したい場合には、可能であれば抜歯を行う前にご相談ください。

抜歯後でもインプラントや骨造成などについて相談することは可能ですが、抜歯した歯を元に戻すことはできません。

「本当に抜歯するしかないのか」を確認したい方へ

抜歯は、一度行うと元に戻すことができない治療です。

他院で「抜歯しかない」「骨がないので歯を残せない」と言われたものの、できればご自身の歯を残したいとお考えの場合には、抜歯を行う前に一度ご相談ください。

精密な診査・診断を行ったうえで、歯を残す場合と抜歯する場合、それぞれのメリット・デメリット、予想される長期予後についてご説明します。

ドクターと診療室

執筆・監修情報

岸本 隆明

資格

・長崎大学歯学部臨床教授

・DDS

・PhD

・MSD

・Diplomate,American Board of Periodontology

・ITI Fellow

ドクター

参考文献

1.Cortellini P, Stalpers G, Mollo A, Tonetti MS. Periodontal regeneration versus extraction and dental implant or prosthetic replacement of teeth severely compromised by attachment loss to the apex: a randomized controlled clinical trial reporting 10-year outcomes, survival analysis and mean cumulative cost of recurrence. J Clin Periodontol. 2020;47(6):768-776.

詳しくはこちら

2.Cortellini P, Stalpers G, Mollo A, Tonetti MS. Periodontal regeneration versus extraction and prosthetic replacement of teeth severely compromised by attachment loss to the apex: 5-year results of an ongoing randomized clinical trial. J Clin Periodontol. 2011;38(10):915-924.

詳しくはこちら

3.Graetz C, Dörfer CE, Kahl M, et al. Retention of questionable and hopeless teeth in compliant patients treated for aggressive periodontitis. J Clin Periodontol. 2011;38(8):707-714.

詳しくはこちら

4.Graetz C, Schützhold S, Plaumann A, et al. Prognostic factors for the loss of molars—an 18-years retrospective cohort study. J Clin Periodontol. 2015;42(10):943-950.

詳しくはこちら

5.Pretzl B, Kaltschmitt J, Kim TS, Reitmeir P, Eickholz P. Tooth loss after active periodontal therapy. 2: Tooth-related factors. J Clin Periodontol. 2008;35(2):175-182.

詳しくはこちら

6.Eickholz P, Kaltschmitt J, Berbig J, Reitmeir P, Pretzl B. Tooth loss after active periodontal therapy. 1: Patient-related factors for risk, prognosis, and quality of outcome. J Clin Periodontol. 2008;35(2):165-174.

詳しくはこちら

7.Matuliene G, Pjetursson BE, Salvi GE, et al. Influence of residual pockets on progression of periodontitis and tooth loss: results after 11 years of maintenance. J Clin Periodontol. 2008;35(8):685-695.

詳しくはこちら

8.Hasan F, Magán-Fernández A, Akcalı A, Sun C, Donos N, Nibali L. Tooth loss during supportive periodontal care: A prospective study. J Clin Periodontol. 2024;51(5):583-595.

詳しくはこちら

9.Herrera D, Sanz M, Kebschull M, et al. Treatment of stage IV periodontitis: The EFP S3 level clinical practice guideline. J Clin Periodontol. 2022;49(Suppl 24):4-71.

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