Periodontal Extractions重度歯周病
と抜歯

歯周病で抜歯を行った方が良い場合

カウンセリングを受ける女の人

私が考える抜歯が必要な場合は、「健康で機能的で快適な歯を維持するのに不適切な付着の喪失がある歯」または「抜歯適応が示唆される歯」です。

主に以下のような状態であると抜歯適応が示唆される場合が多いです。

  1. 歯が根の先の方まで垂直的に割れている場合(歯根破折)
  2. 根の先の方まで歯を取り囲むように骨吸収があり、さらに歯が垂直的に動揺しているような場合で再生療法の予知性が低い場合
  3. 歯周病治療が適切に実践できないような場合
  4. 度重なる歯周膿瘍の既往がある
    場合
  5. 補綴学的・歯内療法学的・歯科矯正学的に抜歯が必要な場合
  6. すでに歯科治療が何回も過去に繰り返されており、歯の量が少ない状態でさらに歯周病やむし歯が進行しているような場合などです。

米国歯周病専門医は、歯を残すための適切な専門教育とトレーニングを3年間受けています。例えば、一般歯科医院での「歯周炎によって抜歯される歯」と米国歯周病専門医のオフィスでの「歯周炎によって抜歯される歯」は、治療計画・治療基準や長期予後の判定基準や治療技術に違いがありますので、抜歯の考え方にはある一定の違いがあると思われます。

歯を最終的に抜くのは歯科医師ですので、歯科医師の治療の哲学や倫理観に少なからず影響を受けます。しかしながら、来院された患者さんの話を聞くと残念ですが歯を残すための知識・技術不足によってあっさりと抜歯と判断されたようなケースも多々見受けられます。

アメリカ歯周病専門医による抜歯の判断基準

抜歯の判断基準には、歯の解剖学的な特徴や歯周病の重症度や進行度のみならず全身疾患や喫煙などの患者さんの環境因子などの歯周炎に影響する様々なリスクファクター、さらには患者さんの希望や歯科医師の治療哲学や医療倫理観なども影響します。

また、歯周炎に関連した要因だけではなく、補綴学的・矯正学的・修復学的・歯内療法学的に抜歯に影響する要素も加味して抜歯を判断する必要があります。このように抜歯の判断基準には様々な要因が影響しています。

歯周病の治療

アメリカ歯周病専門医と一般歯科医師の間で最も異なっている基準は歯周炎とそのリスクファクターに関連した知識と理解度の深さの違い、さらには治療の予知性と根拠に基づいた治療技術だと考えます。

一般歯科医師は様々な治療を幅広く行っているため自分の得意分野とそうでない分野が存在していることが多いです。その一方で、歯科の分野における医学情報は加速度的に蓄積され莫大な量となっています。歯周病学のみでも最新の医学情報や技術を継続してアップデートしていくのにかなりの時間がかかります。

例えばインディアナ大学では毎週約30本の英語論文をクラスで読んでおり、昔からの歯周病学の基礎となるような医学情報と合わせて最新の文献からの知見を得ていました。

それは卒業した今でも同様で毎月新しい英語論文や技術を自分でアップデートしていき患者さんの治療に還元しています。このように得られた知識と技術を客観的に捉え、治療に関わるあらゆる可能性をご説明し、その上で患者さんの希望と合わせて抜歯の判断基準を総合的に判断していきます。

抜歯を判断する流れ

  1. まずは、その歯の長期的予後と歯を残すための技術的な問題、さらには患者さんの希望がマッチしているかどうかを確認します。
  2. 次に歯を残した場合に、長期的に機能的な状態で存在することができるのかどうか、を逆算して考えます。つまり、最終的なゴールは見た目も美しく機能的に咬めること(=補綴)ですので、補綴的に歯を保存することが長期的に予知性があるのかというステップがとても重要です。この時点で、達成不可能であれば抜歯と判断します。
  3. 補綴的なゴールが達成可能であれば、そのゴールに向かうために何が必要なのか、というステップに移ります。これには、矯正治療や歯内療法・修復治療、そして歯周治療などが含まれます。
  4. 矯正治療が必要な場合は、専門医と連携して治療を行っていきます。また、歯内療法の場合は、根の治療が必要かどうか、あるいは治療をして予知性があるのかどうか、を考えます。
  5. 日本の場合は、根の治療はすでに他の歯科医師によって治療されていることがほとんどなので、根の治療の再治療の成功率はすでに低くなってしまっていることが多いですが、専門医と連携して治療が必要で予知性があるようであれば次のステップへ進みます。
    この段階で上記の2つのゴールを達成できない場合は抜歯となる可能性が
    あります。
  6. 最後のステップとして歯周病的に歯を長期的に機能的に残すことができるかどうか、を判断します。治療が予知性のあるような場合は、治療を行っていきますが、抜歯適応である場合は抜歯が必要です。
    このように非常に多くの因子を総合的に考えて抜歯を判断しますが、最終的には、患者さんの希望や歯科医師の技量なども加味して治療の意思決定を行なっていくことになります。

References:
• Zitzmann NU, Krastl G, Hecker H, Walter C, Waltimo T, Weiger R. Strategic considerations in treatment planning: deciding when to treat, extract, or replace a questionable tooth. J Prosthet Dent. 2010 Aug;104(2):80-91. doi: 10.1016/S0022-3913(10)60096-0. PMID: 20654764.

歯を抜かずに治療するメリット・
デメリット

綺麗な歯を持っている女の人

メリット

歯周炎になり周りの骨がなくなった状態の歯を抜かずに治療する方法として、歯周組織再生療法があります。これは一般の歯科医師ではなくアメリカ歯周病専門医の行う専門性の高い歯周治療の1つです。
他院で抜歯と言われた方も諦めずにぜひ一度相談にいらして下さい。

デメリット

歯周炎が進行していくと歯を支えている骨が吸収していきます。この骨の形態が歯周組織再生療法を行う上で非常に重要なので、歯周炎が進行して周りの骨が著しく無くなっているような場合は、歯周組織再生療法が効果的にできない可能性があります。

そのため、歯周炎が著しく進行する前にかかりつけ医から適切なタイミングで専門医のオフィスに紹介されるあるいは患者さんご自身で来院して頂く必要があります。歯周炎は症状なく進行することがほとんどですので、症状がなくても予防的に歯科医院へ行って検査をしましょう。

クリニックの受付

歯を抜いた場合メリット・
デメリット

歯が痛い女の人

メリット

骨の吸収が根の先の方まであるような抜歯適応である歯を抜かず、歯周治療せずにそのままにした場合は、その歯に隣接する歯の骨の吸収が大きくなるという報告があります。つまり、その歯だけではなく、隣の歯にも歯周病が進んでしまう可能性があるということです。

また、歯周ポケットが深い状態であるので、歯周病原性細菌が常に体の中に存在し、血管を介して体にまわっているような状態ですので、歯周炎が進行したような抜歯適応の歯をあえて残すことは全身的にも良い影響はないと考えられます。

虫歯があるはのモデル

デメリット

歯を抜くことのデメリットは、抜歯した歯の部位の咬む機能が失われてしまう、見た目が悪くなってしまう、抜いた歯を支えていた周りの骨が吸収してしまうことなどが挙げられます。

歯をどうしても抜いた方が良い場合でインプラント治療などをお考えの場合は、歯を抜く前にインプラント治療のタイミングや治療方法などを専門医に相談して下さい。