Periodontal Knowledge歯周病の知識

歯周病原菌について

口の中には数多くの細菌が存在しており、むし歯や歯周炎を引き起こす細菌もその中に含まれています。細菌は免疫状態を防御的に誘導することもあれば破壊的に影響することもあります。

グラム陰性細菌やその他の細菌

また、歯ぐきが健康な状態、病気の状態では存在する細菌の種類がそれぞれ異なっていることや、どちらの状態でも常に存在している細菌がいることもわかっています。

健康な状態ではStreptococcu属やActinomyces属のグラム陽性菌が多く存在している一方で、歯周炎の状態ではP. gingivalis, T. forsythia, T. denticolaなどの強く歯周炎に関連しているグラム陰性細菌やその他の細菌が存在していることも報告されています。

このようにSocranskyの報告によると歯周炎の歯ぐきの中に存在している細菌は関連性が強い順にレッドコンプレックスやオレンジコンプレックスを含めた5つの主要複合体に分類されています(Socransky 1998 JCP)。

歯周病原菌による感染について

歯周炎は歯周病原性細菌とそれに対する体の免疫反応によって複雑に誘導されます。歯ぐきが健康な状態では、口の中の細菌と免疫状態は保たれています(Symbiosis)が、炎症を誘導する細菌やその構成成分が歯ぐきの溝から奥の方に侵入していくことによって体がそれらを排除しようと免疫反応を誘導します。

さらに炎症が広がっていき免疫反応のバランスが崩れてしまうと歯周炎が発症し・進行していきます(Dysbiosis)。つまり歯周病原性細菌は炎症を誘導するきっかけとなり、免疫のバランスが崩れてしまうと炎症反応を促進するスイッチを押すような働きをしています。

この細菌に対する免疫反応は個人の遺伝子や環境(喫煙や全身疾患など)によって違いがあるため歯周炎が早く進んでしまう人やそうでない人がいます。

歯周病原菌による感染のサイクル

歯周病はどのようにうつりますか?

歯周病の原因菌

歯周病の原因菌の伝染は大きく分けて垂直伝染と水平伝染とがあります。垂直伝染とは胎盤、血液、母乳などを介して親から子への伝染を、水平伝染とは垂直伝染以外のもので経口、血液、接触、飛沫などの経路での伝染を意味します。

歯周炎に関連する細菌としてA. actinomycetemcomitans (A.a) とP. gingivalis (P.g)の伝染を調べたレビューデータによると、A.aの40-60%の垂直伝染が観察され、P.gは頻繁には伝染しないかもしれないことが報告されています。

また、配偶者間での水平伝染に関しては、A.aは14-60%, P.gは30-75%の水平伝染が観察されたことが示されています。(Winkelhoff & Boutaga 2005) 他の報告によると、P.gの家族内伝染に関しては、細菌を同定する手法によってばらつきはありますが、約35.7-63.5%の家族内伝染が認められたことが近年報告されています。(Bennani 2019)

これらの報告にあるように、歯周炎に関連する細菌は伝染することがわかっています。一方で、歯周炎になるには細菌は必要ですが、歯周炎の原因を考えてみると細菌が存在しているからといって必ずしも歯周炎になるとは限りません。

ただ、細菌に対する感受性は人それぞれ異なりますし、歯周炎が進行した状態ではなくその前に病気を予防していくことが非常に重要ですので、ぜひご夫婦・パートナー・お子さんの歯周炎を防ぐための歯周炎の検査と予防をしましょう。必要であれば、治療を行ってください。

歯周病を悪化させる原因

歯周炎を悪化させる原因は主に、全身的な要因と歯に関連した局所的な要因に分かれます。

全身的な要因

全身的な要因には遺伝的要因、喫煙、糖尿病などが報告されています。例えば、遺伝的要因に関連するデータとして、歯周炎のリスクを増強する50%は遺伝的な要因のみであるという報告もあります。また、親が歯周炎の既往があると子供にも歯周炎既往がより高くなっていたということも最近報告されています。

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喫煙

喫煙と歯周炎の関係性については多くの確立された報告があり、喫煙は歯周炎の最も強力なリクファクターであることがわかっています。

米国歯周病学会(AAP)のポジションペーパーによると喫煙者は非喫煙者に比べて2.6〜6 倍付着の喪失が起きやすいことや、特に40歳以下の患者において歯ぐきに喫煙がネガティブな影響を顕著に与えることなどが報告されています。

糖尿病

糖尿病患者さんの血糖コントロールの不良は歯周炎の状態を悪化し、歯周炎の患者さんはそうではない人に比べてHbA1cレベルが高いことも報告されています。

このように歯周炎と2型糖尿病は、炎症性サイトカイン産生促進や炎症を誘発するレセプターの発現増強などを介して双方向性に影響を受けることがわかっています。

ケーキと血糖コントロール

局所的な要因

局所的な要因としては、深い歯周ポケットや磨き残し(プラーク)が溜まりやすい歯周炎の進行を悪化させる歯に特有な形態や不適合な被せ物なども含まれています。

例えば、分岐部病変に関して、奥歯は歯の根が複数あるため、歯の根の間(分岐部)に歯周炎が進行していくと分岐部の炎症が進行し歯を支えている骨が無くなります。

歯茎が痛い女の人

このように分岐部に歯周炎が進行した状態を分岐部病変と言います。分岐部病変が存在していると歯周炎治療が難しくなり、分岐部病変が進行すると長期的に歯を失うリスクとなることがわかっています。そのため、アメリカ歯周病学会の歯周炎治療のガイドラインでは分岐部病変は歯周病専門医によって治療されることを推奨しています。

歯に関連した局所的なファクター

深い歯周ポケットや磨き残し(プラーク)が溜まりやすい形態や不適合な被せ物なども含まれて
います。

深い歯周ポケット

歯ぐきの溝は健康な状態では1-3mmで浅い状態を保っています。この状態であれば歯ぐきの周りを歯ブラシやフロスで適切に清掃すれば健康は維持できます。

しかしながら、歯周炎になって炎症が進行し歯の周りの骨が無くなり歯ぐきの溝が深くなっていくと、適切にブラッシングをしていても炎症がコントロールできません。そのため、歯周炎が進行するリスクとなり、歯を失ってしまうリスクとなることがわかっています。

分岐部病変

奥歯は歯の根が複数あるため、歯の根の間(分岐部)に歯周炎が進行していくと分岐部の炎症が進行し骨が無くなります。このように分岐部に歯周炎が進行した状態を分岐部病変と言います。

分岐部病変が存在していると歯周炎治療が難しくなり、分岐部病変が進行すると長期的に歯を失うリスクとなることがわかっています。そのため、アメリカ歯周病学会の歯周炎治療のガイドラインでは分岐部病変は歯周病専門医によって治療されることを推奨しています。

歯の形態に関連したもの

Palato-gingival groove, エナメルパール, エナメル突起など。
他にも叢生、Root proximity、オープンコンタクト、不適合補綴物、咬合性外傷などが
挙げられます。

歯周病と全身疾患

歯周病と全身疾患

歯肉炎に関連している全身疾患は、妊娠、白血病などがあり、歯周炎と関連している全身疾患は糖尿病、心血管疾患、骨粗しょう症、関節炎、炎症性腸疾患、肥満などがあります。

糖尿病

糖尿病患者さんの血糖コントロール不良は、歯周炎の状態を悪化し,歯周炎の患者さんはそうではない人に比べてHbA1c レベルが高いことも報告されています.

このように歯周炎と2 型糖尿病は,“炎症”を介して双方向性に影響を受けます。歯周炎治療を行うことによってどの程度糖尿病の状態が改善するのでしょうか?

非外科治療(歯茎の下の歯石や感染性プラークを麻酔下で除去し歯の根を滑沢にすること)を行うことによって3 〜4 カ月後に糖尿病の指標であるHbA1c は0.29 % 減少することが報告されています.しかしながら,6カ月後には0.02 % の減少しか認められなかったことがわかっています。

これは,歯周炎治療を糖尿病患者さんに行うことは安全で短期的には効果的である一方で,長期的な効果についてはよくわかっていないことが示唆されます。

ヨガのポーズをしている女の人

また、前糖尿病患者さん(5.7 % < HbA1c < 6.5 %)における抗生剤併用あり・なしのSRP は15.5 カ月後にHbA1c が0.5 % 改善し,27.5 カ月後では0.4% 改善したこと,前糖尿病患者のHbA1c はSRP 実施後27.5 カ月後に46 % の歯周炎患者が正常値(5.7% ≧ HbA1c)になったことも報告されています.

さらなる科学的根拠は必要ですが、前糖尿病患者さんにとっても歯周炎治療は安全で効果的な可能性も示唆されています。

2018年に発表された歯周炎の新しい分類では、歯周炎の重症度を診断するだけではなく、喫煙や糖尿病の状態も評価して歯周炎の重症度や進行度を決定しています。

つまり、我々は来院する全ての患者さんに歯周炎の診断を行っていますので歯周炎だけではなく歯周炎に関連した全身疾患も評価しています。また、口の中の病気だけではなく全身の病気を予防するという観点から、糖尿病に関連するスクリーニングテストを行なっております。

心血管疾患

心血管疾患(Cardiovascular disease:CVD)には動脈硬化,心臓弁膜症,心不全と心筋症,不整脈,狭心症や心筋梗塞などが含まれ,特に動脈硬化は歯周炎に関連しているという多くの報告があります.

歯周炎は動脈硬化の原因ではありませんが,歯周炎の原因菌が全身血中にまわって体の免疫系を刺激することで,アテローム形成やその成熟や悪化に関与していることが報告されています。また、歯周炎と動脈硬化は喫煙,年齢,糖尿病を含む共通のリスクを共有しています。

心血管疾患

ブラッシング後に感染性心内膜炎に関連した菌血症は,不良なブラッシング状態や歯石付着によって約4 倍,そのリスクが増加することや,同様に歯ぐきの炎症が存在している状態でのブラッシング後のBOP は感染性心内膜炎に関連した菌血症のリスクを約8倍増加したことも報告されています。

つまり,不良なブラッシングと歯ぐきの炎症や歯石付着は感染性心内膜炎に関連した菌血症のリスクであり,それらを取り除くことが菌血症の予防においても非常に重要です。

骨粗鬆症

骨粗鬆症とは低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし, 骨の脆弱性が増大し,骨折の危険性が増大する骨格性疾患です。 

平成30 年の国民生活基礎調査によると,介護が必要になった主な原因のうち,「骨折・転倒」は介護レベルによって8.9 〜18.4% となっています。このように,介護が必要となる「骨折・転倒」の原因となる骨粗鬆症はQOL を大きく減少させる
疾患です。

歯周炎による骨吸収と閉経後の女性の低骨密度の関連について検討した文献では,低骨密度の女性ほど正常な骨密度の女性より歯周炎による骨吸収の割合が大きかったことが報告されています。

また,当院では全身の健康のために骨粗鬆症や骨減少症を予防するという観点から,歯科医院でのパノラマX 線写真を用いたスクリーニングテストを行なっております。

喫煙

タバコの喫煙

喫煙は,ほとんどの臓器に何らかの障害や疾患を誘発するといわれており,がん,心臓疾患,脳梗塞,肺疾患,糖尿病,慢性閉塞性肺疾患などの多くの疾患のリスク因子となっています.

喫煙と歯周炎の関係性については多くの確立された報告があり,喫煙は歯周炎の最も強力なリクファクターであることがわかっています。

米国歯周病学会(AAP)によると喫煙者は非喫煙者に比べて2.6 〜6 倍骨吸収が起きやすいことや,特に40 歳以下の患者において歯周組織に喫煙がネガティブな影響を顕著に与えることなどが報告されて
います。また,タバコの煙には約7,000 もの化学物質が含有されており,少なくとも250 は有害で,少なくとも69 は発がん性があることがわかっています。そのため,受動喫煙の影響についても考える必要があります。

WHO(2004年)によると,世界で40 %の子供,33 %の非喫煙男性,35 %の非喫煙女性が受動喫煙の影響を受けていると報告しており,全世界の死因の約1%に関わっているとされています。歯周炎を改善するためにも禁煙は非常に重要ですが、皆さんの大切な人の健康のためにも禁煙を
しましょう。

なぜなら喫煙は死因の中で最も防ぐことができると言われていますし、禁煙の効果については、たとえば心不全のリスクは禁煙後1年で顕著に減少することや,脳梗塞のリスクは禁煙後2〜5年で非喫煙者と同等のレベルになることなどが報告されています。

私が歯周炎・インプラント治療で関わった患者さんのほとんどは歯科医院に来院されたことをきっかけに禁煙を始め継続されています。

歯周病治療の重要性

歯周病の治療

Beckerらの一連の報告によると、「歯周炎の診断のみを受けたが歯周病治療を行なっていない人」と「歯周炎の診断と歯周病治療は行ったが、メインテナンスを行わなかった人」と「歯周炎の診断と歯周病治療とメインテナンスを行った人」の年間喪失歯の割合を比較したところ、それぞれ0.36本/年, 0.22本/年, 0.11本/年であったことがわかっています。

「歯周病治療とメインテナンスを両方行った人」は「それらをどちらも行っていない人」と比較して約3倍歯を残すことができたのです。つまり歯周病治療は歯を残すために必要で、さらに歯周病治療と併せてメインテナンスも歯を残すために効果的であったことを示唆しています。

これらの報告だけではなく、多くの報告によって個人にあった適切な歯周病治療とメインテナンスを行うことによって歯は長期間機能的に残すことができることが示されています。

歯周病治療の目標

  1. 歯茎に腫れや出血がなく硬いピンク色の状態
  2. 歯茎と歯の間の溝が浅い
  3. 日常生活で支障のない噛み合わせを支えられる歯の状態
  4. 治療終了後にエックス線で歯の周りの骨などに影響がないことが確認される―など
  5. 歯ぐきの炎症を改善させて患者さんが効果的に磨くことができる歯の周りの環境を
    整えること

また、歯周病治療は糖尿病の指標であるHbA1cを0.29%短期的に減少させることもわかっていますし、歯科医院に定期的に通い歯周治療を長期的に継続して受けている人は心血管疾患のリスク因子であるCRPを減少させる可能性も報告されて
います。

歯周病になりやすい人の特徴

歯周炎は,Non-communicable diseases(NCDs.非感染症疾患)の一つで,世界中の人々の45 〜50 % が罹患しており,人の疾患において6 番目に多い疾患であることも知られています.

また,最もシビアな歯周炎は11.2 % の人々に影響しているとも報告されています.

口が痛い女の人

同様に,日本においても65 歳以上の高齢者のおよそ50 〜60 % は4 mm 以上の歯周ポケットを有していることから,歯周炎に罹患している可能性が推測されています.
歯周炎は歯を失う原因の主要因子でもあり,多くの報告によってこれらを予防・治療していくことが口腔健康を長期間維持・向上していくことに繋がっていくことが示されて
います。

Loeらの研究のスリランカ人のデータによると、歯周炎は病気が進行するスピードによって主に、「かなりゆっくり病気になる人」、「ゆっくり病気になる人」、「病気がはやく進行する人」の3つのパターンに分かれます。また、それらの割合は、それぞれ11%, 81%, 8%です。つまり多くの人は「ゆっくり病気になる人」だと考えられています。

約8%の歯周炎になりやすい人の特徴は、全身的に健康だが年齢の割に骨の吸収スピードが早い、家族に歯周炎既往がある、プラークが残っていないのに骨の吸収が大きいなどです。

必ずしも歯周炎になりやすい人の特徴ではないですが、歯医者に通っているのに歯周炎が治らない方や進行している方もその可能性はあります。

また歯周炎の悪化をさらに促進する環境的因子は喫煙、糖尿病、肥満などがあります。これらの「病気がはやく進行する人」「歯周炎になりやすい人」を治療するために重要なことは、いかにはやく歯周病専門医のオフィスを受診することができるかということです。

一般歯科医院での歯周病治療は重症度に関わらず治療方法が変わりなかったという報告もありますので、リスクが高い・上記の特徴に当てはまるような人は、はやめに歯周病専門医のオフィスを受診されることをお勧めします。

歯周病の治療

しかしながら、ご自身でこれらの特徴を判断することは歯周治療を成功に導くタイミングを逸する可能性が高く難しいため、アメリカ歯周病学会の歯周病治療のガイドラインにもあるようにかかりつけ医で早い段階で歯周病になりやすい人を同定し、適切なタイミングで歯周病専門医へと紹介することが機能的な歯を長期的に残すためのキーとなります。

残念ながら、日本では患者さんを専門医へ紹介するような文化がないため、歯医者に通っているけれども良くならないような方が多く、患者さんご自身でインターネットで検索されて来院されることも非常に多いのが現状です。

References:
• Löe H, Anerud A, Boysen H, Morrison E. Natural history of periodontal disease in man. Rapid, moderate and no loss of attachment in Sri Lankan laborers 14 to 46 years of age.J Clin Periodontol. 1986 May;13(5):431-45.
• Cobb CM et al. Periodontal referral patterns, 1980 versus 2000: A preliminary study. J Periodontol 2003;74:1470-1474.
• Krebs KA, Clem DS 3rd; American Academy of Periodontology. Guidelines for the management of patients with periodontal diseases. J Periodontol. 2006 Sep;77(9):1607-11.

歯周病になりにくい人の特徴

歯周病になりにくい人の特徴は、上記の「かなりゆっくり病気になる人」であると考えると全体の約11%であるので、その割合も少ないと考えられます。

よく「私はよく歯を磨いているけど頻繁に病気になって、ご家族の方はあまり歯を良く磨いていないけど病気にならない」ということを患者さんからお聞きしますが、これは遺伝的な要因や細菌に対する体の免疫反応が個人によって異なることからそのような違いが現れていると
思われます。

素敵な笑顔をしている女の人

プラークがついているけれども骨の吸収が全くない人・少ない人が「かなりゆっくり病気になる人」です。これらは、ご自身では確認することができませんので、長期的に歯医者に通うことによってリスク検査をしてもらいはじめてわかるものです。

しかしながら、歯を機能的に長期的に残すということを考えれば、むし歯によっても歯は失われますので、歯周炎だけではなくむし歯のなりやすさも判定する必要があります。歯周病にはなりにくいけどむし歯になりやすいという方もたくさんいらっしゃいます。

歯を失ってから後悔している方がほとんどですので症状や問題がなくても予防的にかかりつけ医に行く習慣をつけましょう。そして「歯周病になりにくい人」も「歯周病になりやすい人」も歯科医院にて予防メインテナンスを継続して受けることに意味があります。